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2006年01月29日

信州そば

午前10時、名古屋から特急しなの7号に乗って長野に向かった。飛行機や新幹線の移動が多いので、在来線特急の旅は何となく風情を感じる。

名古屋を出て1時間くらい走ると、やたらとトンネルが多くなる。南木曾(なぎそと読む)駅に停車すると「ひのきの里」の文字が見える。トンネルを抜けるたびに山が深くなり雪が多くなる。

木曾と聞くと文豪島崎藤村を思い出す。兄が誕生祝にくれたのが島崎藤村の詩集「若菜集」だった。本キチガイの長兄とそれに感化された次兄が本を山と築いていたのに、銀髪は殆ど影響されることなく少年サンデーや、少年マガジンを楽しんでいた。

長兄は「星の王子様」など子供が読みやすいものもくれたが、背伸びして読まなければならなかった「若菜集」はすごく気に入った。
「まだあげ初めし前髪の、林檎のもとに見えしとき、前にさしたる花櫛の、花ある君と思ひけり」
「初恋」の一節は今でもスラスラ出てくる。その後も藤村の他の詩集や「破戒」「夜明け前」などの小説を読んだ。感動して読んだに違いないのだが、記憶にあるのはそのどれかに載っていた藤村晩年の写真と藤村の実像にショックを受けたことである。この人物と「初恋」のイメージがあまりにもかけ離れていたからだ。

昔の思い出に浸っていると、木曾福島の手前で「木曾八景の中でもっとも美しいと言われる寝覚めの床と言われる岩場が見える」との車内放送が流れる。ここは竜宮から戻ってきた浦島太郎が玉手箱を開き余生を過ごした場所で、近くの臨川寺には竜宮から持って来た弁財天や釣り道具が祀ってあるとのこと。

鯛や平目の踊りの何が楽しかったか知らないが、浦島太郎は乙姫様の美しさに溺れたに違いない。そう言えば「酒は旨いしネエチャンはきれいだ♪」とフォーク・クルセイダーズが歌ったヨッパライも神様に怒られて現実に引き戻されてしまった。

酒は旨いしネエチャンはきれいだと、銀座のクラブ遊びに明け暮れた男たちはどこに行くことになるのだろう。「勝ったのは百姓たちだ。俺たちではない(映画七人の侍)」ではないが、勝ったのはクラブの女性たちかな?

「信州信濃のそばよりも、あたしゃあなたのそばがいい」と言ってくれる人もないならば、蕎麦でも喰らって不遇を嘆くしかない。

12時49分、長野駅に着いた。ホームの立ち食いそば屋で一人さびしく山菜そばを食べた。


投稿者 銀髪 : 2006年01月29日 05:47

コメント

銀髪氏は車窓から眺める景色に回想を乗せ、過去から現在へと思いを流していく。
グルメ紀行であれば信州そばを述べなくばなるまい、と表題に持ってきながら、立ち食いそばで落とす。
大変興味深く、楽しく読ませていただきました。

投稿者 st.kem : 2006年01月29日 15:39

寝覚めの床は大きい一枚岩かと思われるが、どうも木曽福島の山奥まで浦島太郎が入ってきたという言い伝えは、これまでに聞いた伝説のなかでも最も信じ難いお話のような気がしてならない。海辺を離れた浦島というのはイメージできないのだ。誰かその根拠を確かめて欲しいものだ。
立ち食いそばという落ちは確かに素晴らしい。何故ならば、あまりにグルメっぽい報告だと、羨望感が先に立ち、コメントし難いジェラシーに陥るからだ。その点、立ち食いそばは親近感に浸れる。

投稿者 ヒマジンスキー : 2006年01月30日 21:10