築地場内市場に夜5時から開く料理屋がある。
築地魚市場というと早朝のイメージが強い。朝行くとマスコミなどで紹介された寿司屋の前にはいつも行列が出来ているが、市場外でやっている寿司屋と違い店じまいも早い。
「山はら」のことは中学時代の同級生から教えてもらった。
5時過ぎに築地魚市場の正門に着いた。朝の喧騒が嘘のようにシーンとしており、場内に入るのを咎められるのではないかと心配する。銀髪はしばしば買い物に来ているので勝手が分かるが、連れの二人は場内市場に足を踏み入れるのさえ初めて。関係者以外は立ち入り禁止と思っていたらしいが、誰でも入れるので気にすることはない。
正門左側の道を歩いて行くと「まぐろ丼」と書いた店が眼に入ったが閉まっている。その先の金網に囲われたお社が水神様。「まぐろ丼」と水神様の間の道を左折した奥に「山はら」はあるはずだ。
こんなところに料理屋があると気付く人は殆どいないだろう。古い旅館といった風情だ。
仲居さんに丁寧に迎えられた我々一向は靴を脱いで2階の座敷に入った。以前は場内の別の敷地にあった建物を現在の場所に移築したらしいが、昭和21年創業の店はさすがにあちこちに傷みが見られる。同級生の絶賛がなければひるんだかもしれないが、料理は確かなはずだ。臆することは何もない。
付け出しのイカの塩辛をつまみにビールを飲んでいると刺身の盛り合わせが出てきた。
豪快な姿に我々3人は呆気に取られたが、食べ始めると意外に勢いよくなくなっていく。どれも美味いが、マグロの赤身が他では味わえない美味さだ。
北陸では禁漁期間のため、同僚は冷凍ではないかと失礼なことを言う。銀髪が指摘したとおり、ロシア産で先ほどまで生きていたものだ。身はしっかり詰まっており、通常なら手間がかかって誰もが無口になる蟹だが、苦もなく殻から取り出せる。甘い身は久し振りの満足感を与えてくれる。
大きな鯛の塩焼きを同僚が絶賛する。食べやすいように身をほぐして連れの二人に供して、銀髪は頭をもらってご満悦。口元のゼラチン質をしゃぶっているときにご主人の片又さんが、我々に挨拶に来てくれた。
夏はいい魚を客に出すことが出来ないと申し訳ないを繰り返す片又さんだが、我々は充分に満足した。10月にはあんこう鍋が始まるそうで、そのときには胸を張った片又さんを見ることができるだろう。
鯛のつみれが入った潮汁も美味しかった。
満腹の筈が、3人ともしっかり割り当て分を腹に収めた。
4時間近くかけて食べたせいか、何とか残さず食べることができたが、鍋をメインに据えられたら完食できるかどうか自信がない。
勘定を済ませ階段を降りた。玄関を開けようとしたら、片又さんが「市場の夜が明けました」と言った。9時を過ぎて正門が閉まってないかちょっと心配した我々だったが、外に出ると来たときとうって変わって車が行き交い人通りも増えていた。魚が翌朝の競りに向けて次々と運び込まれ始めたのだ。片又さんの言った意味が分かった。
これから仕事が始まる人には申し訳ないが、我々はもう一軒行って何曲か十八番を競って帰ることにした。満腹!満腹!
山はら
東京都中央区築地5-2-1
03-3541-8747
投稿者 銀髪 : 2006年08月23日 06:00
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