ジャン・バルジャンが盗んだ銀の食器?
日本橋三越に隣接するマンダリンオリエンタルホテルのフレンチレストラン「シグネチャー」に行ったときのことである。料理が出てくる前にテーブルに並べられたナイフを持ち上げ凝視していたら、若いウエイターが近寄ってきた。「お客様、それは魚用のナイフでございます。」と得意満面、ご親切に教えてくれた。「何だ、これはクリストフルじゃないんだ!」と銀髪が言うと彼は青ざめた。
銀髪はナイフのメーカーを知りたかったが、老眼が進んで読み取るのに時間がかかっていたのだ。ウエイターは無礼を恥じたのか、クリストフルでないのを恥じたのか分からないが俄かに緊張した。「これも銀のナイフです」と言い訳したが、「クリストフルと同等なの?」とたたみ掛けると「とてもクリストフルには及びません」と冷や汗をぬぐいながら離れていった。
クリストフルは銀の食器やアクセサリーで有名なフランスの老舗で創業170年を誇る。「ああ無情」と言うと若い人は分からないだろうが、「レ・ミゼラブル」の主人公ジャンバルジャンが教会で盗んだのも銀の食器だった。もしかしたらクリストフルかと思ったが、物語は1800年代初めなので違うメーカーのものだ。
数年前、英仏海峡にあるガーンジー島に行ったら、ビクトル・ユーゴーの記念館があった。彼は約150年前にレ・ミゼラブルをこの風光明媚な孤島で書き上げた。今はタックス・ヘイブンや保養地として知る人ぞ知る島だが、当時の彼は流刑人の気持ちだったに違いない。自分自身の体験を基にして書いたと言われるが、銀の食器を盗んだわけではないだろう。
銀食器の歴史を調べるとクリストフルでさえ、新参者に思えるほどである。海外駐在員の奥様方がボーンチャイナやクリスタルグラスと並んで興味を示すのがクリストフル。我が家にもあるが、今もビニール袋に入ったままだ。空気に触れると手入れが大変だからと言うのだが、それでは一生使えない。
硫化によりわざと変色させたいぶし銀とは異なるが、擦り傷を作りながら使いこなされ渋みが出た銀のフォーク・ナイフも味わい深いものがある。ずっしりとした重みを両手に感じながら食べる食事はステンレス製では味わえない満足感を与えてくれる。
この記事を書くために数年振りに我が家のクリストフルにお目にかかった。ウェッジウッドやボヘミアングラスはどこにしまってあるのだろう。まさに箱入り娘そのもので、その美しさを世に示すことが出来ない食器たちがかわいそうで仕方がない。
PS
トップの写真はクリストフルの日本橋高島屋店で撮らせてもらった。スターリング・シルバー(純度92.5%)でも傷がつきやすいが、傷も味があっていいと、店の女性スタッフと意見が一致した。快く写真を撮らせていただいてありがとうございました。
純度が低い割安のものも売られているので、欲しくなったら優しい彼女に相談したら?親切にアドバイスしてくれるはずだ。
投稿者 銀髪 : 2007年03月24日 05:22
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