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2010年01月31日

[佐佳枝亭](福井)

辛い大根の越前そば


老舗蕎麦屋の佐佳枝亭はお堀の向こう側にある。石垣の中にあるのはお城ではなく県の庁舎なのが異様だ。城を復元して観光や町のシンボルとして活用する都市が多いが、福井は近代的なビルを建ててしまった。知事になってお殿様になった気分を味わいたいものだ。

11時半、佐佳枝亭にはまだ誰も客はいなかった。合計すると200年近いと思われる3人の視線が銀髪に注がれた。調理場にも同年輩の女性が一人。女性ばかりの店かと思ったら、平均年齢を上げそうな男の料理人がいた。彼が主人だろうか。

福井のそばは越前そばというよりもおろしそばの名称の方が古いそうだ。越前おろしそばと言えば完璧になる。メニューを何度も繰って、結局シンプルなおろしそばを頼むことにした。但し、辛味だいこんのおろしを選ぶ。ついでに鯖寿司をつけた。

「なんだ、しみったれてるなー」少ししかない大根おろしを見て、700円だから仕方ないと思い直した。ところがそばをタレにつけて一口食べると滅茶苦茶辛い。既にタレの中に大根が相当量入っていた。この大根が辛いのなんのって、心底驚いた。大根おろしをそばにたっぷり絡めると口の中がヒリヒリする。辛味大根は何度も食べたことがあるがこんなに辛いものは初めてだ。

さば寿司を食べて口の中を中和させる。きゅうりを食べてホッとした。壁を見ると本日使っているそば粉の産地が書いてある。福井県産そば粉を地産地消の店だという。大正5年創業の誇りが感じられる。

大根おろしを全部そばつゆに放り込んだ。ますます辛くなった。イヤー、辛い。口の中が悲鳴をあげている。大量のわさびを食べるバツゲームのようだ。なんとかそばをたいらげて、そば湯をたっぷり加えたが、飲み干すことは出来なかった。

後から入って来た客の半数はカツ丼を食べていた。もちろん、福井のカツ丼は卵とじではなくソースカツ丼。銀髪のように口を歪めている客は他にいない。

佐佳枝亭では普通のおろしそばかカツ丼を食べるのが無難だ。「辛味だいこんは辛いですね」とおばちゃんに言ったら「そうですか?」と無表情につれない返事。もしかすると、たまたま激辛の大根に当たったのかもしれない。

帰りは公園を通り、橋を渡って城跡を抜けて行った。口の中のヒリヒリは、お腹に移ってきた。ちょっとやばい。歩幅を広げスピードを上げて駅へ向った。

佐佳枝亭 本店
福井県福井市順化1-24-1
0776-21-0533
http://www.sakaetei.jp/

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2010年01月30日

一人旅

一人JR特急の旅

新幹線では仕事のイメージが強いが、在来線に乗ると旅行している気分になる。山間にぽつんと立つ民家を見つけると、そこに住む人の暮らしを思いながら時間が過ぎる。2時間の特急の旅は新幹線よりも楽しい。

福井に向う特急しらさぎの中で、名古屋駅で買ったおにぎりをほおばった。駅弁では昼飯が食べられなくなる。天むすでも買おうと思ったが、横にあった名古屋名物味噌カツのおにぎりを手にしてしまった。100円の天むすに比べて160円とは破格の高さだ。グルメ紀行を始めてから、ついつい珍しいものを手にしてしまう。

パソコンを見ていたら、突然車内が明るくなった。外を見ると一面の銀世界。まぶしくて目をそむけると、一転して列車は暗闇に突っ込んだ。トンネルをくぐる度に銀世界は大きくなると思いきや、敦賀ではわずかに汚れた雪が道路脇に残る程度だった。これまでで一番長いトンネルを抜けると再び銀世界になった。

「福井県あわら温泉と三国温泉とに泊まりカニを食べてきました。帰途に富山で3時間ほどを用意して富山市役所の無料展望台に昇り、その前に銀髪グルメで以前にカバーされた寿司榮総曲輪本店で地魚握りのセットを戴き…」

Mさんからのメールを読み返した。銀髪グルメ紀行が役にたったことを喜びながら、心の中は穏やかではない。全国各地、色んなところに行くけれど文字通り駆け回っているだけでゆっくり温泉などにつかったことはない。

大学生の時、一人旅をした。お伴はキャノンの一眼レフカメラだった。今はノートパソコンがお相手であまり状況が変わったとは言えない。今さら妻を誘っても、二つ返事は難しいだろう。越前ガニを餌にしても食いついてくれるか微妙だ。Mさんはどんな手を使ったのだろうか。「誘われたのは僕の方ですよ」と言いそうなのが不愉快だ。

「間もなく福井です」と車内にアナウンスされた。雪に覆われているかと思ったが、意外なことに殆ど溶けてしまっていた。大雪が降ってもすぐに気温が上がるので、雪が消えるのも早いそうだ。たまに強い寒気がやってきても温暖化の傾向は変わりそうもない。

福井では数時間しか滞在しないので、越前ガニを食べる時間はない。昼飯はそばでも食おう。一人旅も悪くはない。

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2010年01月29日

[よしおか](福岡)

随一のあら料理


扉を開け、店に入った瞬間に感じるなんとも言えない空気。どこにでもある割烹料理屋の造りだが、いい店だと確信した。常連さんと座った席はカウンターのど真ん中。目の前のネタケースに20kgを超えると思われるあらがオーラを発していた。

「剥製じゃないですよね」銀髪の冗談に主人は素直に反応してくれた。創業してから26年、季節によって大きさは異なるが年中あらを出しているそうだ。「仕入れが出来ないこともあるでしょう?」と聞くと「あらがなければ休みます」と胸を張る。

お通し、ふぐ刺し

「歯応えがあるように厚く切りました」と出て来たてっさ。確かに話しながら食べることは不可能。喉を通り過ぎるまで会話は止まる。

お造り、塩焼き

あら、さば、大トロのお造りは軽く炙ってある。「少し火を通した方が美味しいんですよね」と話しかけると主人も満足気だ。「あらは塩焼きが一番美味しいんですよ」と常連さんに講釈をたれているところに、塩焼きがやってきた。銀髪の話を予想していたかのようだ。

ふぐの唐揚げ、野菜

料理はお任せで、少しずつ出してくれる。ガラスケース越しに主人が度々我々の皿を見る。次の料理を出すタイミングをはかっているのだ。男っぽい顔つきの主人だが、気配りは行き届いている。店に入った瞬間に感じた空気はこんなところから発せられていたに違いない。

あら汁

「唇は食べられるんですか?」あらの大きな顔を指さした。「もちろんです」と作ってくれたのがあら汁。「食べたいところを言ってもらった方がいいんですよ」と優しい。プルンとしたコラーゲンを食べると、男だって肌がツルツルになりそうだ。

天豆、漬物、おにぎり

常連さんが女将さんに囁くので何が出て来るのかと思ったら、おにぎりだった。具がたっぷりのおにぎりがとても美味しかった。さすが常連さん、よくご存知だ。

あらの奥深さをもっともっと教えてもらうために、もう一度行きたいよしおかであった。

板前割烹よしおか
福岡県福岡市博多区中洲2-7-29
092-291-5246

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2010年01月28日

[鳥元](関内)

壊れた蓄音機


かねてから美味しいと聞かされていた店に遂に連れて来られた。荷物を置いてトイレに行っている間にオーダーは全て終っていた。K氏は自分が好きなものしか頼まない。違うものを頼もうとすると「それは不味い!」と拒否される。

スープ、さつま揚げはお通し代わり。もろきゅうにはK氏のためにマヨネーズが添えられる。K氏の好みを店側は熟知している。「飲み物は何か頼んだんですか?」と聞くと緑茶ハイを頼んだと答える。「ビールがいい!」と反発したのは銀髪だけ。他の人は「オウ、意外といけるね」と上手だ。

K氏に「どうだ、美味いだろう」と言われれば否定する人はいない。悔しいけれど確かに美味しい。本当に立派なシロだ。半分食べたところでまた「どうだ、美味いだろう」と言う。お代わりするのを銀髪も同意した。全部食べたらまた「どうだ、美味いだろう」と来た。壊れた蓄音機みたいだと言っても若い人は意味が分かるまい。

体のことを気遣って、K氏は野菜を多く食べるようになった。しかし、生野菜にはマヨネーズやドレッシングをたっぷり、炒めた野菜もバターや油がたっぷり。どこまで本気で健康を気にしているのか分からない。

ぼんじり、手羽の唐揚げ、どちらも脂が乗って美味しい。レバーもきっと美味しいはずだ。鳥わさも食べてみたい。塩で焼いてもいいはずだ。しかし、どれも「不味い料理」と言われそうなので遠慮した。違う機会にゆっくり食べよう。

「これ何だか分かりますか?」出来損ないのフォークのようなものを皆にかざした。中心の丸い穴に串を入れて身を抜く道具に違いない。尖った部分に抜いた身を刺して食べるのだろう。鳥元の串は長いので、食べ辛い。量が多いので分け合って食べる方が多くの種類を食べられる。店主を呼び「これはどこかで買えるの?」と聞いたら、先代が考えて特注したものだということだった。これは欲しい。

鳥元という同名のチェーン店の一つかと思っていたが、まったくの別経営。歴史はこちらの方があるようだ。先代から引き継いだ若い息子が店主で、西口店を母親がやっている。
「どうだ、美味かっただろう?」という台詞はあまり聞かないで済んだ。K氏は勘定を払ってさっさと消えてしまったからだ。まったくせわしない。

今度はカウンターでデートでもしようか。美女の笑顔が加われば、今日よりもっと美味しいと感じるはずだ。特製フォークも力を発揮するだろう。今度は銀髪が壊れた蓄音機になるのは間違いない。

鳥元 馬車道店
神奈川県横浜市中区真砂町4-43 木下商事ビル
045-681-0364

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2010年01月27日

[味楽亭](新宿歌舞伎町)

今では変わった焼肉


約10年振りの訪問だった。人間の記憶は、いや、銀髪の記憶はなんと頼りないものだろう。メニューを何度も繰った。料理だけでなく、飲み物の種類も少ない。今ではどの焼肉屋でも置いてあるマッコリもないのに驚いた。

野菜類はサンチュ、ナムル、キムチぐらいしかない。取りあえず、サンチュとナムルを頼んだ。肉の質を知るためにレバ刺し、他店と比較しやすい牛タン塩、それからロース、カルビなどの肉を選んだ。

「塩、こしょうは自分でやってください」とまだ凍って、くるまったままのタンがテーブルに置かれた。もっと驚いたのはレバ刺しのはずがタレにまみれたレバーが出てきたこと。若い不慣れな韓国人店員の間違いかと思ったら「うちは刺身は置いてないんですよ」と店主らしき人が言う。後ろの客の注文にも「クッパはありません」と答えている。メニューに書いてあるものがないとは経営が変わったのかもしれない。

どの焼肉も赤いタレで覆われている。どの写真も一緒に見えるのでパチパチは止めて食べることに専念した。何枚か食べているうちに徐々に思い出してきた。この店の特徴は赤いタレだったのだ。好みによって辛さを調節してくれる。10年前に赤坂で焼肉を食べれば、似たようなタレを使う店がたくさんあった。このタレをつけて焼いたウナギの蒲焼は面白かった。

カルビを焼いたら炎が舞い上がった。すかさず店主が氷を持って来て火を消す。七輪の窓を閉めて、火力の調節方法を教えてくれたのには苦笑するしかなかった。子供の頃は七輪は各家庭の必需品だった。七輪の構造を熟知していたはずなのに、火の勢いに慌ててしまった。

記憶が甦るにつれ、当初の失望感は和らいでいった。時代と共に焼肉屋の業界も変貌し続けている。今や醤油ダレにつけた焼肉ではなく、塩焼きの焼肉が主流である。ましてコチジャンベースの赤いタレの焼肉は殆ど見なくなった。

味楽亭を他店と比較するのは馬鹿げている。これはこれで魅力的な焼肉だと言えるかもしれない。

味楽亭
東京都新宿区歌舞伎町2-23-10
03-3200-1919

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2010年01月26日

[江島]⑤(銀座)

今シーズン初めての松葉ガニ


お客様のHさんが煙草に続いてデジタルカメラをテーブルに置いた。銀髪よりかなり年上に見えるのにブログを書いていると言うので驚いた。いつもは接待の席でカメラを出すのに気を遣う銀髪も今日は遠慮がいらないのを喜んだ。

白子2種

「まずビール」と誰もが典型的な日本人なのにHさんは最初から日本酒を飲むと言う。酒のメニューを見て「アルテンはダメだ!」とまた驚かせてくれる。アルテンとは醸造用アルコールが添加されている日本酒のこと。「純米でなければ日本酒とは言えない」と銀髪と同意見。同好の志と知って喜んだ。

刺身(ひらめ、しまあじ)

紹興酒も40年物、50年物などを多く保有しているそうだ。中国に赴き紹興酒の工場見学に行ったとは恐れ入る。日本酒古酒のコレクションもあると言う。Hさんと銀髪の酒談義に他の人はついて来れない。途中から銀髪も聞き役に専念した。

「久し振りの松葉ガニだ」とさすがのHさんも嬉しそうだ。銀髪にとっても約1年振りの松葉ガニである。Hさんは蟹の足についているタグを持ち帰ると言う。食べ始めるとその勢いにまたまた驚かされた。銀髪は遠慮しながら何とか自分の食べる分を確保した。もちろん半々とはいかない。甲羅酒は全部譲った。Hさんはゴクゴクと美味そうに飲み干した。

「この皿を下げてよろしいですか?」と店の女性が言うのが聞こえた。見ると向こうの皿にヒラメのエンガワが残っている。「こっちに持って来て」と言ってHさんと二人で分けた。せっかくの美味しい料理を残す方が恥ずかしいと同意してくれたようだ。実に愉快だ。

「お食事はどうされますか?」と店の女性が聞く。「どうせだから蟹尽くしにしましょう」と蟹寿司を選んだ銀髪にHさんも追随した。北海道産のズワイガニは松葉ガニより味は落ちるがそれなりに美味しい。だしになってしまった椀の中の蟹もむさぼるHさん。立派!

数年前までは自分がノーマルだと思っていた。今では自分が変わり者だと思わざるを得ない。銀髪よりも上を行く変わり者に会えたのは収穫だった。銀髪よりも人生を楽しんでいるHさんがちょっと妬ましくもあった。

江島
東京都 中央区 銀座 3-5-4 十字屋ビル4F(松屋デパート向かい)
TEL:03-3535-3131
http://www.ginza-ejima.com/

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2010年01月25日

[けんぞう](熊本)

やっぱり馬刺し


「水前寺というお寺はないんですか?」これまでの運転手さんと同じように「ありません!」と断言するが「どうして寺がついているんですか?」と聞くと絶句するのも同じ。「熊本県人なのに答えられないのは恥ずかしい」と苦悩する運転手さんに料金を払いタクシーを降りた。

店はアーケードからすぐのところにあるので雨も気にならない。カウンターの正面に座る。冷蔵ケースに魚が並び寿司屋のようだ。「馬刺しだけじゃ商売にならないですから」と主人の賢三さんの答えを聞いて「むつ五郎」を思い出した。旅行者だけでなく地元の人にも愛されている店のようだ。

1人前2,310円の馬刺しは高いと思ったが、目の前に出されて納得した。これを各人に頼んだのは失敗だった。もっとも部下はペロリと食べてしまった。彼は酒を飲まないので銀髪の先へ先へと走っていく。

タン、心根(大動脈)、心臓、レバー、コーネ(たてがみ)の5点盛り、中でもレバーが秀逸だった。コリコリと歯応えがあるレバーにはなかなかお目にかかれない。レバー刺しが苦手と言う部下も「これは美味しいですね」と感激していた。
賢三さんの緊張が融けた頃を見計らって「ところで水前寺という寺はあるんですか」と質問した。タクシーの運転手さんと同じ道筋を辿る。賢三さんは料理する手を止めて難しい顔をしている。あー、愉快。

生肉を食べ尽くしたのでホルモン焼き、串焼き、一口カツと進む。ヒレ肉の一口カツが思ったよりも美味だった。最後は馬汁を飲んでお開きにした。6時半過ぎ、店は少しずつ混み始めてきた。

空港へと告げ、「いい客つかまえたね」とタクシーの運転手さんに言うと、偶然ではないと答える。人気の店は県外からも客が来ることを調査済みなのだ。賢三さんとも顔見知りらしく、彼がむつ五郎出身だということを教えてくれた。なかなか饒舌な運転手さんだ。

なおも話を続けようとするのを制して質問した。「ところで、水前寺というお寺はあるの?」形勢は逆転した。なんとか熊本県人のプライドを保とうとするが、水前寺公園や水前寺清子の名前を出してはしどろもどろになっている。パソコンを開き調べてあげると、「ヘー、インターネットって凄いですね」と感心する。

けんぞうもインターネットで知った店だ。けんぞうだけでなく、そこで客待ちをする運転手さんもインターネットの恩恵を受けていることには気付いていないようだった。


けんぞう
熊本県熊本市下通り1-8-24 七光ビルBF
356-8775

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2010年01月24日

[にぼらや](熊本)

熊本で煮干ラーメン


熊本での昼食は熊本ラーメンを食べることになっている。黒亭、こむらさき、味千、桂花などの老舗有名店はあらかた食べた。もっとも、市内で食べ損なったら空港で食べても良しとしているのだから、ラーメンを語る資格はない。まあ、熱くてそこそこ食べられれば文句を言わない。

今回も口コミサイトでラーメン屋を検索したのだが、意外なことに上位に煮干ラーメンが入っている。不思議に思ったものの、考えてみると東京でも「東京ラーメン」なるものは少数派である。熊本だってとんこつラーメン以外のものがあってもおかしくない。

「熊本の水と北海道羅臼昆布、土佐の鰹などで作り上げた和風だし」「無農薬の餌で育てられた放し飼いの地鶏の卵」「化学調味料は一切使わない」などなどこだわりのラーメン屋さんとのこと。二日酔い気味の胃にはとんこつスープより優しいのは間違いないようだ。

煮干しラーメンが目の前にやってきた。「かつお節をかけますか?」と言うので少しかけてもらった。余計なことだが、みんなは海苔をどのようにして食べているのだろうといつも気になっている。伊丹十三の名作「たんぽぽ」では海苔の食べ方の解説はなかった気がする。初めての試みとして手で切り裂いて2回に分けて食べた。溶かして食べた方が良かっただろうか。

写真では油が浮いているのが見えるが、食べているときは気付かなかった。あっさりとして美味しいラーメンだった。隣を見ると既に部下は食べ終わっている、と思ったら再びレンゲでスープをすくう。これで終りかな、と思ったらまたレンゲを持つ。銀髪の視線に気がついて「あとをひきますね」と言った。

「とんこつラーメンでなくて悪かったな」と言うと、「本当は今日のようなラーメンの方が好きなんです」と言うから正直だ。熊本出身なので郷土のラーメンを愛していると信じていた。「それじゃー、これまで嫌々銀髪に従ってラーメンを食べていたのか?」といじめようかと思ったが止めておいた。部下といえども、満足そうな顔をわざわざ歪めさせることはない。

にぼらや 酒場通り店
熊本県熊本市下通り1-5-17
096-356-3060
http://www.niboraya.com/

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2010年01月23日

[のっけ家](静岡)

まぐろ丼


「まぐろ丼と牛タン、どちらがいい?」静岡名物ならまぐろと麦とろと言うべきだが、敢えて麦トロ飯とセットになっている牛タンを前面に出した。思ったとおり迷っている部下を見るのが面白い。悩んだ挙句、まぐろ丼と答えたのは予想の範囲内だった。彼はとろろが好きではない。

「本鮪大トロ頭肉丼が名物らしいぞ」銀髪が誘導しても部下は乗って来ない。「僕、まぐろづくし丼にします」と言われてがっかりした。2種類の写真が撮れなくなってしまった。銀髪は最初からまぐろづくし丼に決めていた。

二人仲良くまぐろづくし丼を食べることになった。赤身から手をつけたが意外なことに旨い。一番美味しそうなところから食べるか、それを最後に残すか育ちが分かる。好物を最後にする人は、子供の頃に奪われる心配がなかったのだろう。家庭内でも生存競争を強いられた人は、奪われる前に好きなものを食べる。

大物政治家の息子だった友人は大勢の秘書や書生たちと一緒に毎日食事をしたと言う。個々人に与えられたのは飯茶碗と箸のみで、取り皿はなかった。おかずは直接口に入れるしかない。キープするなんて出来なかったのだ。好きなものはいの一番に食べる。たくさん食べたければ早食いしかない。

銀髪よりも早いスピードで食べていく部下を見て友人を思い出した。客は次々に入ってくる。銀髪も部下を追いかけなければ白い目で見られそうだ。まぐろに比べてご飯の量が少ないのでバランス良く食べるのが難しい。ごはんだけ大盛りにしてもらえば良かった。

のっけ家は水産会社の系列らしい。清水、豊田、甲府、富士などに7店舗構えている。リーズナブルに美味しいまぐろが食べられると評判がいい。部下が嬉しそうに食べていたので、メデタシ、メデタシである。カツガツと早食いするのを見るのは、ご馳走する側からしたらそれなりに気持ちがいいものだ。


のっけ家 静岡店
静岡県静岡市葵区紺屋町4-27 森川ビル1F
054-205-8251

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2010年01月22日

[順海閣](横浜中華街)

シウマイの元祖?


「脇道の小さい店が美味しいんですよね」地元横浜の人のことばに全員が頷いた。しかし、具体的な店の名前は出て来ない。結局、銀髪が案内することになってしまった。ところが「山東」など心当たりのあるところはどこも行列が出来ている。すぐに銀髪のネタも切れてしまった。

順海閣の看板を見ると「脇道の小さくて汚い店が美味しいんだぞ!」と言う亡き父の声が聞こえてきた。約40年前、福岡から東京に転居して数ヵ月後に父に連れられて中華街にやってきた。そのとき、少し並んで入った店が順海閣だったはずだ。3人を引き連れて店に入った。

でかい!大きな部屋がいくつもあり、複数の大きな丸テーブルには地名の札が立てられている。観光バスの到着を待っているようだ。みんなが失望したのではないかと気になったが、観念するしかない。オーダーも銀髪に任された。最後に食べるつもりだったフカヒレチャーハンが先に来た。幸い、みんな美味しいと喜んでくれた。

ランチだったので、飲茶を演出した。お互い遠慮しなくていいように、点心類は4個ずつ入っているものを選んだ。小さな店でなくても、誰も文句を言わなかった。銀髪に気を遣ってくれたのだろうか。料理に満足してくれたからだろうか。

もちろん銀髪はビールを飲んだ。すぐ顔が赤くなる部下は涙を飲んだ。小龍包は例によってそのまんま口に放り込んだ。火傷しそうで大変満足した。スペアリブは殆ど銀髪が食べた。ビールの肴には最高だった。

家に帰って順海閣のホームページを開いた。創業は1945年で7~8人が入れば一杯になる店だったという。支店を出したり、本店を拡張したのが1980年以降ということだから、銀髪の記憶は間違いではなかったようだ。さらに崎陽軒に勤務していた創業者の父親が、シウマイの開発者だと分かった。実に面白い。

昔も今も脇道や裏道に小さな店が次々と開店し、ダメな店は消えていく。若さと情熱を持ったチャレンジャーの店は活気があり、美味しいのは当たり前だ。不況の今こそチャンス到来といったところだろうか。順海閣を目指して頑張って欲しいものだ。

順海閣
神奈川県横浜市中区山下町147番
045-681-1324
http://www.junkaikaku.co.jp/

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2010年01月21日

[そして…はなまる](新宿3丁目)

焼き鳥は美味しかったけれど


靖国通りの角に立った瞬間決めた。週末の夜、予約もしていないのに躊躇してはいけない。インスピレーションに従うべきだ。階段を降りて店に入るとまだ空席が目立つ。キッチン近くに集まった店員たちは忙しそうでこちらを向いてくれない。右を見たら誰かがこちらを向いて立っていた。店員と思い、手を上げて一言発したところで鏡に映った自分だと気が付いた。そっと手を下ろし、誰にも見られなかったことを確認した。

お通し、日本酒

「大根おろしは醤油を数滴垂らして…」と食べ方をメニューで教えてくれる。ビールが来たところでカップルが1組入ってきた。予約席を除いて全て席は埋った。空席が多く見えたのも鏡のせい。銀髪の決断は正しかった。トボトボ階段を引き返す人が多い。洒落た日本酒の器を見て、ますます自分を褒めた。

白レバー、身、ネギマ、つくね、砂肝、ハツ

殆どの串焼きは1本~なので、メニューの上から順番にオーダーした。つくね以外は塩焼きにしてもらい、柚子胡椒をつけて食べた。もちろんMy唐辛子も活躍する。満足、満足。

ナンコツ、皮、ささみわさび、はつもと、ぼんじり

予約席も一杯になった頃から連れが「煙い」と目を押さえ始めた。銀髪の決断に汚点をつけたくないので「気のせい」と我慢を強いた。銀髪も目を押さえた数分後、突然火災報知器のベルがけたたましい音を立て始めた。しかし、店員も客もまったく慌てる素振りを見せない。

牛タン串、トマトサラダ

逃げようかとも思ったが、数人が階段を降りてきては満席と断られて帰っていくのを見て留まることにした。トマトサラダがまだ残っている。5分以上も鳴り響き、ベルはようやく疲れ果てたようだ。勘定を頼むと卓上のポットの鳥スープを飲むように奨められた。

「6階が原因だったらしいです」と店員が言い訳した。人気の店にうまく入れたことよりもスプリンクラーが作動してずぶ濡れにならなかったことがラッキーに思えた。連れは怒っているかと思ったら、「味は良かったよ」と慰めてくれた。

そして…はなまる
東京都新宿区新宿3-14-22 小川ビル B1F
03-3353-3028


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2010年01月20日

[ちゃぼうず](銀座)

なかなか楽しいちゃぼうず


「おう、一番乗りか!」カウンターの中に勢ぞろいする料理人、こちら側に立つフロアスタッフの視線が銀髪に集まった。「一番に何かいいことあるのかな?」と笑ったが、直立して迎えてくれたことが最高のおもてなしということだった。まずは店長の槙尾さんと名刺交換。

お通しはちゃぼうず風じゃがいもサラダ。目の前の大皿にほおずきのようなトマトが並んでいる。皮を剥いて、オーブンで焼いて、3日干す。ちゃぼうず名物のごぼうの唐揚げは一度茹でてから揚げる。若者に人気の居酒屋にしてはどの料理も手がかかっている。

居酒屋らしいのはカップ酒。焼酎に比べて品質維持がやっかいな日本酒も、カップ酒なら多品種を揃えられる。安っぽいようだが懸命なやり方は賛同できる。
さて、お奨め料理はまだまだある。生牡蠣だって単純には食べさせてくれない。ゼリー状になった海水と共に食べる生牡蠣は一味違った。

同行したYさんはちゃぼうずサラダを頼んだ。たっぷりの量に居酒屋だったことを思い出した。銀髪はお奨めに従ってオーダーを続ける。茶碗蒸しを思わせるような料理は生うにのなめらか豆腐。「温かければもっといい」とYさんは言うが、なかなかどうして。銀髪は冷たくて正解と思う。

「次は?」というと目の前の総料理長・萩原さんが「是非、柚子饅頭を食べていただきたい」と懇願する。饅頭と聞いて一度断った料理だ。そこまで言うなら頼もうじゃないかということになった。成る程熱心に奨めるだけあって、見ても食べても見事な一品だった。

自家製からすみに添えられた大根は羽子板の形に切ってある。どれもこれも手間をかけていて、居酒屋のレベルを超えている。「萩原さん、独立して割烹やったら?絶対繁盛するよ」と言うと、そのつもりだったが恩人に頼まれてちゃぼうずに来たとのこと。義理を欠くわけにいかないのだろう。

恩人に対してだけでなく、元気で明るいスタッフたちも決断を躊躇させているのかもしれない。ちゃぼうずで安く美味しく食べられるのは嬉しいが、萩原さんにはいつの日かリーズナブルに食べられる割烹料理屋を開いて欲しいものだ。彼には成功するオーラがあると思った。


酒菜庵 ちゃぼうず
東京都中央区銀座1-4-6 ナスダビル2F
03-3567-0007

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2010年01月19日

[佐賀 雑穀](渋谷)

佐賀の珍味と旬の素材を使った料理


東京では珍しい佐賀料理の店。開業して40年以上というが、板前は店の年齢より若そうだ。客の応対を担当する女性に「夫婦ですか?」と自信なげに聞くと兄弟と言う。やっぱり、「お姉ちゃんですね」と銀髪も合点がいった。先代が二人の親ということになる。

「これは麩ですか?」板前の弟に聞いたら「鶏のミートローフです」ときた。日本料理=麩と結びつけたのは浅はかだった。老眼による勘違いは時々白い目で見られる。

佐賀県の特産物であるがんづけ、むつごろう、わらすぼなどを連れはあまり喜ばなかった。丸天は喜んで食べたので、魚ロッケや竹輪、はんぺんなどを頼んだ方が良かったようだ。佐賀県産日本酒の金波や東一の肴にして殆どを銀髪がたいらげた。

「お嫌いでなかったら生のナガスクジラがありますよ」とお姉さんが言う。南氷洋産と書いてあったので冷凍だと思っていた。生の鯨と聞けば断れない。連れも最初は恐る恐る、次からは喜んで箸を出した。

ガラガラだった店内もかなり埋ってきた。そうなると姉弟二人では手が足りなくなる。お姉さんは弟に指図するだけでなく、時折包丁を握る。その包丁捌きを感心して見詰めた。姉と弟の力関係は年齢だけではないのが分かる。
本日の煮物は大根。かなり大きいのでそれなりに腹が膨れた。雑穀まで行き着けるかな?

「もうすぐ煮魚も来るんだよね」と言うと、弟の顔が少し変化した。注文をこなしきれなくなっている。時計を気にしていた右隣に座ったカップルが席を立った。ホウボウが煮えるまでそれほど時間はかからなかったが、雑穀の料理を頼む気は失せた。勘定を頼むとぜんざいが出て来た。

佐賀料理といっても高級な佐賀牛や呼子のいかなどは置いていない。東京生まれ、東京育ちの姉弟の店は、佐賀名物というよりも旬の料理がお奨めのようだ。弟と話をするには忙しすぎたのがちょっと残念だった。


佐賀 雑穀
東京都渋谷区宇多川町31-4 しのだビル7F
03-3464-8416
http://www.zakkoku.co.jp

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2010年01月18日

[酔心](東京駅八重洲地下街)

酔心を飲んで美しく


「鍋を食べよう」心に決めて地下街を歩き始めた。酒の肴では間が持てない下戸の部下とは鍋料理が適当に思えた。銀髪には美味い日本酒があればいい。お互いのニーズが合いそうなのが酔心だった。店に入るとそれほど混んでいない。女性客は一人も居ない。

中国人女性が注文を取りにやってきた。3,990円の寄せ鍋セットを頼んだ。あれこれ肴を選ぶ必要はない。ビールを飲み干し年配の男性店員を呼ぶ。店長の小藤田さんだ。「酔心以外の酒はないの?」と意地悪を言うと「それはないでしょう」という顔をする。酔心は広島の銘酒・酔心の直営店である。

「120店ほどあった酔心も今は60店ぐらいに減ってしまいました」別系列の店も含めてあちこちに酔心の店を見かけたものだが、かなり少なくなった。若い女性が集まる居酒屋が増えても、酔心は今もおじさんたちに支えられている。しかし、酔心でも焼酎を飲む客の方が多いそうだ。

銀髪の相手を店長に任せて部下は黙々と食べ続ける。刺身も焼き魚も各人に配されるので部下は遠慮の必要がない。「日本人はもっと日本酒を飲まなきゃね」と意気投合すると店長が吟醸酒を持って来た。銀髪にお猪口を渡して注いでくれた。部下にもお猪口を差し出すと手を振って断る。店長が居なくなって「馬鹿だな、お前も注いでもらえば俺がもう一杯飲めたのに」と部下をなじった。酒呑みは意地汚いのだ。

ボリュームたっぷりの鍋だ。3分の2は部下に任せて飲み続けた。吟醸酒のお礼にもう1本頼む。店長が壁の絵を指し示した。横山大観の絵で「寿」を図柄にしている。「大観にとって醉心は主食であり、米の飯は一日を通じてわずかに朝お茶碗軽く一杯程度のもので、後は全部醉心でカロリーを取っていたといわれています。」とのこと。凄いね。

焼酎が好まれる理由は悪酔いしないからという。カクテルにしたら飲み口も軽い。しかし「美味しいから」と言う人はあまりいない。純米大吟醸や純米吟醸などは横山大観が愛した酒より遥かに美味しいはずだ。もちろん料理の供は純米酒で充分だ。

日本酒復活のキーワードは美肌かもしれない。日本酒に美肌効果があるのは昔から良く知られている。居酒屋に進出してきた若い女性たちに日本酒の未来はかかっている。「日本酒の方が美味しいわよ」と言われれば、おじさんたちもグラッとくるに違いない。

季彩膳 酔心
東京都中央区八重洲2-1 八重洲地下街南1
03-3275-3909
http://www.e-suishin.com/

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2010年01月17日

[ぎょうざ大学 元町店](神戸)

神戸ぎょうざの人気店


「どうやって見つけたんですか?」年長の部下に聞く。「前に近くを通ったとき行列ができてたんですよ」と答える。寒い中で並ぶのは嫌だと思いながらついていくと、路地には誰もいない。店内を覗いても客はいないので「しめた!」と思ったら、後ろから「11時半開店です」と冷めた声。開店までの10分を店の中で待たせてもら交渉をする間もなく、冷たい声の主は我々を追い越してドアをピシャリと閉めた。

アーケードに戻りヤマハの店などで時間を潰させてもらった。11時31分、店に戻ると中年夫婦に一番札を奪われた。彼らは奥の4人掛けテーブルに、我々は近くの4人掛けテーブルに陣取った。鷹揚なのか面倒くさいのか、人気店の割には窮屈に座ることを強要されなかった。

ぎょうざだけなら2人前から、ラーメンなども頼めば1人前でもOK。追加オーダーはできないので部下は同時にラーメンも頼んだ。銀髪がぎょうざ2人前だけしか頼まなかったので部下は心配してくれたが、ちゃんと腹具合を計算していた。飲み物は追加オーダーが出来るのだ。

ビールは大瓶だった。ぎょうざが焼きあがる前に1本、焼きあがってからもう1本追加した。店員も心得ている。何も言わないのにラーメンと一緒に小さなどんぶりを持って来てくれた。愛想が悪いと口コミに書かれているが、気が利いている。部下のぎょうざ2個とラーメンを少しもらってあげた。

大昔、先輩にご馳走になったときのことを思い出した。料理を頼む前にビールをガンガン飲まされた。ビールで腹を膨らませて、料理を食べれないようにする魂胆である。意図はすぐに分かったが、注がれるビールを断るわけにはいかなかった。

12時近くになって店も混み始めた。ぎょうざライスを頼む客が多い。学生はニンニク入りを食べられるが、サラリーマンは我々と同様にニンニク抜きを食べているのだろう。意外なことにラーメンも悪くなかった。でも、次回来ることがあってもぎょうざにビールを頼むだろう。出来ればニンニク入りを。


ぎょうざ大学 元町店
兵庫県神戸市中央区元町通2-3-5
078-332-2233

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2010年01月16日

[MALLIGAN マリガン](神戸)

ショットバーでゴルフレッスン


1次会が終って、今は9時少し前。「なんだー、せっかく来てやったのに」ゴルフ狂の部下が鍵のかかったドアをガチャガチャ言わせた。階段を降りて看板を見ると開店は8時となっている。その看板もビルの上の方にかけられた看板もライトが消えていた。諦めて違う店に向った。

11時半、部下が意図したわけでもないのにさっきの小道に迷い込んだ。「ライトが点いてますよ」と銀髪が言うと、彼は時計と睨めっこする。もうホテルに戻って眠る時間である。銀髪のことを気にかけているようなので、銀髪から階段に足をかけた。

「火曜日はレッスンがあるから11時開店なんです」店主の武藤さんが謝っても「年賀状に書いてなかったぞ」とまだ文句を言っている。武藤さんはプロゴルファーで、MILLIGANはゴルフ好きが集まる店らしい。「カクテルは出来るの?」と聞いたら「自信有りません」と正直だ。焼酎の水割りを頼んだ部下を横目に、銀髪は棚に並ぶボトルを左から順番に見ていった。

席を立ち、右の棚を見に行くと、カウンターの右端に珍しいボトルを発見した。「これは売り物じゃないんでしょ?」銀髪が唯一興味を持ったスコッチのラベルはセントアンドリュースなど名門ゴルフコースの写真だ。見るだけのボトルを写真におさめて席に戻った。

フォアローゼスをシングルで頼んだ。まず店名であるMALLIGANの由来から聞くことにした。ティーショットを無打罰で打ち直すことをMALLIGANと言う。1世紀前の米国の医師Malligan先生がやっていたことから、彼の名前がゴルフ用語になった。米国でのシニアツアー参戦を目指す武藤さんは自分の人生をこの言葉に重ね合わせているそうだ。

「シャンクが出て困るんですけど」「ドライバーを買いなおすときに気をつけることは何ですか?」部下や常連客を差し置いて銀髪が武藤さんを独占した。ホームページによると、武藤さんはレッドベターを日本に紹介し、通訳をするなどの多彩な経験でティーチングプロとしての礎を築いた。サックス奏者のKenny Gとも親交があり、彼に「世界一のゴルフの先生」と言わしめたそうだ。

東京からは頻繁に行けないのが残念である。彼にゴルフ練習場やラウンドでのレッスンを受け、夜にはMALLIGANで一杯やりながらアドバイスをもらうことができる。そんな神戸の人たちは幸せだ。


MALLIGAN マリガン
兵庫県神戸市中央区中山手通1-9-6 リバーアップビル3F
078-393-2228
http://www.h4.dion.ne.jp/~golfg

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2010年01月15日

[和香](神戸)

アットホームに京料理


「どうやって見つけたんですか?」と部下に聞いたら「ヤフーで調べた」と答える。数年前まではインターネットとは無縁の60代だったが、今は自由に使いこなしている。見知らぬ土地に来ても、店探しに苦労することはない。

「ゆったりと使ってください」主人は6人掛けのカウンターを我々4人に占拠させてくれた。「どうせ今日は貸切りでしょう」と意地悪を言う部下にも優しい笑顔を返す。「お奨めは何?」と聞いたら「京都で修行しましたので…」と言う。日本料理全般何でもござれのようだ。

付出しが3品。日本酒に合いそうな肴と思うものの、他の人たちの意向は焼酎。酒のメニューを見ると3分の2が焼酎で占められている。京料理に焼酎では可哀想だと思うが、自己主張は慎んだ。

「少しずつ盛合せにしてくれる?」面倒な要求にも主人は快諾する。おこぜ、自家製からすみ、寒ぶりのかま、よこわ(メジマグロ)を切ってくれた。地元瀬戸内産のおこぜが特にいい。

「去年来た時に食べたすっぽんが絶品ですよ」と部下が奨める。「浜名湖産?大分産?」と聞くと近場の岡山産とのこと。天然物を使うこともあるというが、この日は養殖物。小鍋の底に卵が沈んでいる。2人は黒色のゼラチン部分を残した。おじさんたちは食べ物に冒険しない。それにしても赤坂の「たん良」が閉店したのは残念だ。

ふぐ白子の刺身は一皿のみ頼んだ。鮮度が良くて癖がまったくない。一人で食べるつもりだったが、みんなにも味わってもらうことにした。今度はゼラチンを残した二人が喜んで食べた。部下はあまり嬉しそうな顔をしていない。まったく難しいものだ。なまこは全員喜んで食べた。定番のものは苦にしない。

部下の予想は外れた。奥のテーブル席は2つとも埋り、カウンターも我々の独占が崩れた。震災にも妨げられることなく常連客に支えられて20余年。〆のうどん作りに忙しく働く主人にカウンターの常連客が「そんな安いもの一生懸命作らなくてもいいよ」と茶化す。それを笑顔で軽く受け流す優しい主人。出来上がったうどんを女将が運んで行った。

夫唱婦随のアットホームな割烹。初めて来た銀髪にも優しかった。

和香
兵庫県神戸市中央区北長狭通1-20-12 地蔵ビル2階
078-332-0447

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2010年01月14日

[青山](大宮)

大宮の老舗割烹


「もっとわかり易い場所にしろよ、ボケ!」幹事役のFはインターネットで選んだ店への道がよく分からず、ボスになじられた。歩道橋などで囲まれた大きな駅は平面的な地図では迷うことが多い。拡大した地図を用意していた銀髪が道案内をすることになった。

「イヤー、迷っちゃったよ」招待客がパラ、パラと揃ってきた。散々携帯で道を聞いてきた客も無事辿りついた。その客を迎えに出て、行き違いになったFを皆で待つことになった。Fは戻って来てまた怒られた。

「ここ、来たことあるよ」と一番迷った客が随分昔のことだと言い訳する。料理を運ぶ女性に聞くと大宮では老舗といってもいいらしい。ところが「開店はいつ?」の質問には「かなり前」としか言えなかった。

焼き魚の皿が妙に殺風景だ。他の人たちと比べるとレモンが乗っていないことに気がついた。もともと焼き魚や唐揚げにレモンをつけるのは好きではないので丁度いいと思ったが、隣席の皿にも乗っていない。店の女性に言うと慌てて銀髪の分まで持って来てくれた。文句をつけた手前、銀髪も焼き魚にレモンを搾った。

ふぐ刺しの写真は撮り損なった。メインは蟹のしゃぶしゃぶである。Fは欲張り過ぎだ。8000円のコースにふぐもズワイガニも入れるのには無理がある。そもそも8人の宴会で料理を楽しもうというのが間違っている。仕事の話、遊びの話、硬軟取り混ぜての会話に数本の焼酎ボトルで油をさせば何を食べても一緒だ。

店主が来たので「青山さん?」と声をかけた。ところが本名は斉藤さん。割烹に相応しい名前をつけたと言う。字画の多い名前は固すぎると思ったのだろう。和食店では「さいとう」とひらがなだけか「さい藤」など漢字かな混じりにするところが多い。しかし堂々と斉藤にしてもいいような気もする。「埼玉」に比べると「さいたま」はちょっと弱弱しいと不満な市民もいるはずだ。

勘定をしてコートと鞄を受け取った。カウンターには常連客らしい3人が板前と談笑しながら食べている。「青山」の味はカウンターで楽しむ方が良さそうに見えた。

割烹 青山
埼玉県さいたま市大宮区桜木町2-181
048-647-0860

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2010年01月13日

[伴]③(八重洲)

親子で繁盛


新年会で伴に行くことになった。以前は頻繁に来ていたのに、新規開拓にかまけているうちに足が遠のいてしまった。それでも「大将、久し振り!」と声をかけると、「いつもブログでお世話になっています」と笑顔を向けてくれた。実に気持ちがいい。

岩のりと塩辛のお通し、厚めに切った刺身は以前と変わらない。鯖のたたきが来てオヤッと思った。初めて食べる料理だ。壁の貼り紙に自然と目が行く。純米酒は置いてなかったはずだ。もちろんハイボールなんか見たことない。

しばらく来ない間に鯖しゃぶが冬の看板料理になったそうだ。鮟鱇も今が美味しいと言う。会社の連中は忘年会で食べたらしいが、銀髪は参加しなかった。「よし!今度俺がご馳走してやる」とMさんが胸を張る。新年会の翌週、伴に再訪することになった。

「長崎産ですか?」と聞くと「さすが銀髪さん、良く知ってるね」と大将が答える。「ときさばを確保するのは大変なんですよ」と続ける。対馬海峡で獲れる寒さばのうち400gを超えるものが旬(とき)鯖と呼ばれる。青魚は中途半端に温めると臭いが気になるものだがその心配は無用だった。

「北海道産?」アンコウを茨城産と言うのは面白くないのでちょっとひねった。「茨城産です。北海道産は高くてね」と意外な答え。肉厚で身がしまった北海道産の方が値が張るらしい。昔は関東でしか食べなかったアンコウだが、今は全国区。漁獲高も他県の方が多い。それでもやはり茨城産アンコウはトップブランド。「今日のは最高ですよ。触ってみればすぐわかります」と大将の息子・二代目がアンコウを手づかみで鍋に放り込んだ。

本場の茨城県では水を加えず、アンコウの肝はすり潰し、味噌で味を整える「どぶ汁」が主流。伴のアンコウ鍋は初めての人でも食べやすい寄せ鍋風。火が通ったら食べ頃で、シンプルな味付けだけに鮮度が勝負となるそうだ。鯖、アンコウ、野菜の味が溶け込んだスープは最後に雑炊となって腹に収まった。

「息子が本腰を入れ始めてから店が変わってきたんだよ」とMさんが解説する。酒の品揃えや料理の変化は若者の意見が影響しているのだろう。不況にもかかわらず、店は一杯だった。繁忙だから息子が真剣になったのか、息子が真剣になったから繁盛しているのか。大将に聞いたら「そんなことはないよ」と照れ笑いを見せるに違いない。


すし処「伴」
東京都中央区八重洲1-5-21
03-3278-1644

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2010年01月12日

[MARUGO マルゴー](新宿三丁目)

気取らないでも大丈夫


「エッ!ここがマルゴーなの?」驚く銀髪に我々の相手をしてくれた久保さんが「2店目がマルゴーⅡで、3店目が一番大きなマルゴーグランデです」と続ける。確かにどのチェーン店も1店目が古くみすぼらしく、儲かるに従って大きな支店を作る。

当然のことながら1号店がマルゴーである。どの店もワインバーであるが、扱うものはマルゴーがフランス産、マルゴーⅡが新世界、マルゴーグランデがイタリア産を主に扱っているそうだ。もっとも3店は近いので、他の店のワインセラーから数分でボトルが届けられる。

キッチンは狭くて本格的な料理ができるとは思えない。その代わり、融通はきかせてくれる。バーニャカウダとチーズフォンデュを食べたいと言うと、野菜はかぶらないようにしてくれた。二つの料理の間のお奨めは牛トリッパと白インゲン豆の煮込みだった。700円とは良心的だ。

ワインバーだけにグラスでも選択肢は多く、1,000円未満のリーズナブルなワインが主流なので安心である。しかし、「シャトーマルゴーやシャトー・ぺトリュスはあるの?」なんて馬鹿にしてはいけない。久保さんに聞くと、他の店に電話をして確認し始めた。もちろん確認するのは在庫があるかなしかではなく何年産があるかである。

さすがにシャトーマルゴーやシャトー・ぺトリュスのグラス売りはないが、1本10万円程度のワインをグラス売りするかどうかは久保さんが決断できるようだ。彼女の前だからといって、ワイン通のように振る舞うべきではない。「〇〇をグラスで飲めたら頼むんだけどなー」なんて言おうものなら、久保さんが「いいですよ、開けましょうか?」と答えるのである。

本当に高級ワインを飲むつもりなら、マルゴーはいい店である。他の店より安く飲めるのは間違いない。しかし、出来ればワインに深入りしたくはない。久保さんとのワイン談義で満足すべきである。彼は決して高級ワインを無理強いすることはない。

リーズナブルな食事とワインでも充分である。「あなたと一緒なら、高級ワインなんていらないわ」と言ってくれる人が隣にいてくれたら…


MARUGO マルゴー
東京都新宿区新宿3-7-5
03-3350-4605
http://www.bar-maru5.com/pc/

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2010年01月11日

[フリッツ](赤坂)

明るいとんかつ屋(?)


美味しいとんかつ屋のイメージが頭にあった。テレビで見たのか、グルメ雑誌で見たのか覚えていない。「赤坂の客先に同行お願いします」と部下に言われてフリッツのことを思い出した。アポは11時なので30分で切り上げれば丁度いい。

法人回りの営業マンをしていた15年ほど前、ランチの店を決めてから訪問先を選んだものだ。顔繋ぎが目的だけで客のところに行くのは気が重い。ランチのついでと考えれば何とか重い腰を上げることができた。ランチの楽しみがあれば客先への足取りも軽くなる。

綺麗な店で驚いた。くたびれた暖簾、すすけた感じのカウンター、カツを揚げる職人肌のオヤジの店と思っていた。己の記憶力のなさ、甚だしい勘違いに少し呆れた。入居しているビルからも容易に想像できたはずだ。「とんかつ屋に行くぞ!」と連れて来られた部下も意外そうな顔をしていた。

店名の前に「洋食 とんかつ」と書いてあるのにメニューの筆頭はハムカツ。次が名物ビーフカツなので何を食べるか迷った。熟考の末、ランチ限定のロースカツを食べることにした。部下はミンチ&メンチを頼んだので味見をすることが出来た。

まず部下のミンチ&メンチを少しずつ、まだきれいな箸で銀髪の皿に取り分けた。次いで銀髪のカツを一切れ部下の皿に移した。ミンチとメンチ、どちらも美味しい。次に何もつけずにトンカツを噛む。フワーッといい香りが口に広がる。銀髪より先に「これは美味いですね」と部下が言った。

入り口に近いテーブルでは4人が肉厚のトンカツを食べていた。店員が豚の産地を言って置いて行ったので一番高いロースカツと特上ヒレカツのようだ。揚げ時間は約20分のはずが入店して10分足らずで食べ始めたので、あらかじめ電話で注文して来たのだろう。
右隣に座った客たちは迷わずビーフカツを頼んだ。3人連れのおばさま達は仲良く日替わりを食べていた。

ハンバーグもコロッケも美味そうだ。ハムカツも食べなければならない。ラーメンもある。再び部下が同行訪問を頼みに来るのはいつになるか。それが問題だ。


フリッツ
東京都千代田区永田町2-13-10 プルデンシャルタワー1F
03-3500-3755

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2010年01月10日

大勝軒 いぶき

麺が上手に食べられない


先日、テレビでつけ麺がブームと報じていた。つけ麺の産みの親は東池袋大勝軒の創始者山岸一雄氏というのが定説らしい。既に50年もの歴史があるにもかかわらず、最近ブームになっているのは何故だろうか。

光が丘の駅から歩いて数分、住宅地にさしかかるところに大勝軒の幟を見つけた。山岸氏の引退が大きく報じられてラーメンマニア以外にも広く知られるようになった大勝軒だが、本店はおろか暖簾分けした店にも入ったことがない。幟につられて行くと5人が並んでいた。

長時間待ってまでラーメンを食べたいとは思わないが、5分や10分なら他の店を探すより待つ方が得策である。しかし寒風の中で前金を払わされるとは思わなかった。人気店では食券を買わないと列に加われないことが多い。山岸氏がもっとも重視したという「お客様への感謝の気持ち」は約60店の大勝軒のれん会加盟店にどのように伝わっているのだろうか。

待ち時間は予想より長かった。入ってみるとカウンターが7席のみ。行列の先客と我々2人が入るためには総入れ替えしないといけないことが分かった。肝腎のつけ麺はなかなか美味しい。

銀髪と同年齢の部下はラーメンを選んだ。銀髪も大勝軒でなければラーメンを食べただろう。寒風にさらされたためだけではなく、熱々のラーメンを好むのがおじさんたちの習性だ。テレビではつけ麺ブームの理由として、若者が熱い麺をすすれないことを上げていた。確かに豪快にズルズルと音を立てて食べる人は少なくなった。一度れんげに乗せて冷まして食べている。しっかり噛んで胃に負担をかけない食べ方だ。

他の全員がつけ麺を選んだことを知り後悔していた部下も、ラーメンを一口食べて笑顔になった。100g増しの300gのつけ麺は簡単に銀髪の腹に収まった。隣席の女性はまだ半分も食べていない。あつもりにした麺は早く食べなければ絡まって食べにくい。そう言えば外国人は熱々でなくても麺を上手にすすれない。欧米化の傾向はここにもあるのかもしれない。最後に入った我々が最初に店を出た。

「5分で食って来い!」約30年前、ボスにどやされて食堂に走ったものだ。席に駆け戻り受話器を持ち上げた。呼び出し音を10回聞いて電話を切り、ため息をつく。電話の先は無人の独身寮。仕事をするフリも堂に入っていた。


大勝軒 いぶき
東京都練馬区田柄5-16-10
03-3577-4112

大勝軒のれん会
http://www.tai-sho-ken.com/noren/index.html

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2010年01月09日

お料理デビュー

ビギナーズラック?

「正月はやらない」年末が近づいてくると母が言う。1月2日に3兄弟とその家族が集う恒例行事が負担だとぼやき始めて既に10年以上になる。大勢の料理を作るのが辛くなったと言うので、銀髪が鯛をおろして刺身にしたり、築地から本鮪の大トロを買ってきたりして兄たちを迎えた。

これが続くと母は銀髪ばかりが苦労しているのを見てられないと言い出した。気を遣って冷凍飲茶セットを買ってくれたこともあるが、蒸す、焼く、揚げる料理を強いられてゆっくり飲むこともできなかった。「嫌々やっているのではないから」と言っても母は納得してくれず、試行錯誤が毎年繰り返された。

「銀髪は包丁を握るな」「3兄弟が平等に」という母の意向に沿って、兄たちに料理を持ち寄るように伝達した。後になって「大変だから何も持って来なくていい」と母に引っ掻き回されても優しい兄や兄嫁たちは忠実に実行してくれた。

ハワイで生まれ育った父の影響からか、我が家の男共は厨房に立つことを厭わない。最も遅く料理に目覚めた長兄も、随分前から週末はご馳走を作っているらしい。時々素晴らしいものが出来たと言うけれど、お目にかかったことはなかった。アグー豚の角煮と煮たまごが、彼のデビュー作となった。

「甘すぎたかなー」角煮の味付けを気にしている。確かに甘いが料理屋のものと遜色ない。辛党の銀髪が最初に作った角煮は砂糖を控えすぎてちっとも美味しくなかった。プロが使う砂糖や塩の量を知ると素人は怖気づいてしまう。

煮たまごは角煮以上の出来だった。見た目は色が薄いのに、食べてみると味がしっかり染み込んでいる。半熟の具合もなかなかいい。この日のためにラーメン屋から作り方を教わったというからお兄ちゃんも頑張った。お世辞ではなく立派なデビューであった。

兄たちも還暦を過ぎて引退も間近になっている。これからは新しい人生の開拓が始まる。様々な興味の中でも食は避けることができない分野。これを楽しむことが出来れば人生はこれからもバラ色だろう。

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2010年01月08日

[奈加野](渋谷)

これがHanako?


「銀髪さん、どうやって店を探しているんですか?」とよく聞かれる。毎日が新規開拓の銀髪にとって店を選ぶのは苦痛ですらある。雑誌も有力な情報源だ。先日、病院の待合室に置いてあったHanakoで知った店が奈加野だった。

電話番号は間違っていないはずだ。しかしナカまでしかはっきりと聞き取れなかった。居酒屋のはずだが電話から聞こえてきたのは中国語訛りの日本語である。不安なまま店に向った。中華料理屋ではなくて安心したがHanakoの写真とは随分違う。正真正銘の典型的な居酒屋に中国人の女性店員。今はあたりまえかもしれない。

中国娘が本日お奨めの刺身を教えてくれる。他の席の立派な刺身に心を動かされたが、つみれ鍋で充分のような気がする。鍋の用意が出来るまで、お通しと煮込みで場つなぎすることにした。日本酒の品揃えも悪くない。周りを見ると女性客の方が多い。Hanako効果だろうか。

鍋とその材料が運ばれてきた。しばらくすると蓋の穴から蒸気が勢いよく噴き出してきたが、誰もやって来ない。店主なのか従業員なのか分からない日本人のおじ(い?)さんをつかまえて、鍋奉行は客の特権と教えてもらった。ありがたく銀髪が奉行を拝命した。

いわしのつみれは竹の器に山盛りになっている。これをどのように入れるかで性格が分かる。繊細と豪胆のどちらに見られたいか迷った末に、中間の無難な道を選んだ。まったくもってつまらない日本人だ。野菜は出しになるごぼうや煮えにくい白菜の芯のところから順番に入れていく。奉行にはなれても関白になれない家庭での銀髪の姿がばれてしまった。

いわしと野菜の旨味が出ている汁を堪能するためにうどんではなく雑炊を頼んだ。中国娘は例によって材料をテーブルに置いて去っていった。煮詰まった鍋にスープを足すと水分が多くて失敗したかなと思ったが構わずごはんを放り込んだ。おじさんがやってきて「汁が多いんじゃないの?」と痛いところを突く。「これが好きなんですよ」と言い訳した。出来映えは悪くなかった。

若い女性たちはオヤジ達の聖域にまでどんどん入ってくる。Hanakoもそんな彼女たちのために奈加野のような居酒屋も紹介する。オヤジ達にとっては嬉しいような悲しいような複雑な気持ちだろう。「どうだい、居酒屋で一杯やるか?」と言う相手が女性とは…

奈加野
東京都渋谷区宇田川町31-3
03-3476-1787

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2010年01月07日

[左京 ひがしやま](銀座)

銀座で京都


銀座は1丁目から8丁目まであるが、一般的に銀座といえば北は電通通り、南は中央通りの周辺をイメージする。その区域を外れたところには隠れ家的で、銀座としてはリーズナブルな店が多い。左京ひがしやまもそんな店の一つである。

地下の店に誘う階段から打ち水がしてあり、一歩降りるごとに京都に近くなった。店内はゆったりとして落ち着いている。我々はカウンターの一番奥に案内された。がらんとした店内のカウンターの隅に我々と先客2人が並んで座った。

料理の説明をしてすぐに持ち場に戻る料理人の気を引くのは難しい。手を休めず働く彼を振り向かせるのはさらに難しい。次に料理を運んで来たときに素材の産地を尋ねたら、入り口近くの板場にいる料理人に聞きに行った。常連さんが「あちらが主人ですよ」と教えてくれたので驚いた。てっきり忙しく働いている方が主人と思っていた。

白味噌の椀物が出て来た。初めて豊橋の妻の実家に食事に行ったときに、白味噌の味噌汁を出されて驚いた記憶が甦ってきた。わざわざ銀髪のために買って来たと言うので、お代わりを断ることが出来なかった。銀髪も義理の両親たちも合わせ味噌を白味噌と思い込んでいたのだ。

京風料理が次々と運ばれてくる。常連さんが主人と言った料理人を観察する。手前の料理人とは対照的なゆったりとした動き。そこで思い出した。ホームページには、左京ひがしやまは青山のフォンダ デ ラ マドゥルガーダも入っているアトワンズグループの一つとして紹介されていた。オーナーではなく店長だとすると、彼の身のこなしも納得できる。

「阿部さん、卵はないの?」常連さんが店長に聞く。「探してきます」と明るい返事。かくして特別に我々は玉子かけごはんを食べることができた。


手が空いたのか阿部さんが相手をしてくれた。「さっきのカラスミはどこの?」と聞くと「自家製です」と答える。「自分のところで真空パックしているの?」ビニールパックを破るのを見ていた銀髪が疑問を呈する。「築地場内に機械があって、お金を出してパックしてもらうんです」と言う。これは勉強になった。築地は色んな機能を持っているようだ。

阿部さんが持ち場に戻ったので今度は近くにいる料理人に声をかけて名前を聞いた。本当によく働くのに感心した。無表情に見えたが「鶴田さん頑張ってね」と言うとなかなかいい笑顔を見せた。阿部さんも頑張ってね。


左京 ひがしやま
東京都中央区銀座3-7-2 オーク銀座B1
03-3535-3577

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2010年01月06日

[はじめ屋](新宿歌舞伎町)

緑のちょうちん


屋台に毛がはえたような店のガラス窓の向こうで老若男女が盛り上がっている。窮屈そうなのでその店は避けようと思った。角を曲がったところに緑のちょちんがぶら下がった店を発見。国産素材を50%以上使っている安心な店のようだ。

扉を開けると満席のように見えるが店員は席に案内してくれると言う。店のどん詰まりで左折、配膳場所のような狭い通路を抜けるとカウンター中心の空間があった。なんとそこは避けたはずの屋台に毛がはえたような場所だった。

コートは壁にかけず、丸めて足元に置いた。煙がもうもうとして目が痛い。何かあったらガラス窓を蹴破ればいいやと覚悟を決めた。メニューを見て料金が安心なのに救われた気になる。道行く人を観察しながらお通しのキャベツ口に入れる。向こうにとってはこちらが動物園の檻の中かもしれない。

見事な焼き鳥に目をみはった。砂肝も一串にたくさん刺さっている。160円とは思えない。客がたくさん入っているのも分かる気がする。多少の煙は我慢する価値がある。

お奨めの特製朝挽もも串が焼き鳥の中では一番高い250円だけのことはある。立派な元祖皮串は100円とは泣けてくる。決して煙のせいだけではない。

看板の牛すじ煮込みはコラーゲンたっぷりプリプリしている。連れはこれを脂と見限った。取り皿の隅に放置されたコラーゲンが恨めしげに銀髪を見ているような気になるが、ヒンシュクを買いそうなので食べるわけにはいかない。串揚げの盛合せも衣が脱がされて可愛そうだ。まったくもって今日の連れは残酷である。

ふと気が付くと煙たくなくなっていた。二巡目の客に入れ替わる頃合いになったのかもしれない。新規の客が焼き鳥を頼み始めるまで、しばし焼き場は暇になる。名代焼き餃子を食べようか迷ったが、ホッピーで膨らんだ腹に余裕はなかった。

狭い通路を抜け、残った客たちの幸運を祈りつつ、無事に店を出た。こだわりの串焼きはなかなか良かった。角を曲がり、我々が居た部屋を覗き見た。今度はこちらが観察されている。いや、観察しているのは我々のはず。ウーン、マァ、いいか


はじめ屋
東京都新宿区歌舞伎町1-26-7
03-3200-0123

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2010年01月05日

[新世界菜館](神保町)

特大の上海蟹


「こんな大きな蟹は滅多に入って来ないです」半信半疑だったが見せられて本当に驚いた。今まで数十匹食べたけれど、これほど大きな上海蟹は初めて見た。300g以上もあると言う。銀髪の手と比べるとその大きさがよく分かる。

「上海蟹以外は大した料理はないよ」と連れに言ったのを謝らなければならない。2回来たことがある新世界菜館だが、上海蟹のイメージしか残っていない。三種の冷前菜には渤海産花クラゲ、大黒神島産牡蠣の冷製、もち豚の自家製チャーシューを選んだ。どれも悪くない。特に花クラゲがコリコリとして面白かった。上海蟹とフカヒレのスープも上海蟹が蒸し上がるまで立派に責任を果たした。

甕出しの紹興酒を頼んだら上澄みのものをグラスでサービスしてくれた。中ほどのものと比べると味の違いが分かって面白い。「イヤー、どれも美味しいけれど、この店の良いところは下積みの若者たちだね」と言って笑わせた。気分がいいとオヤジギャグも快調だ。

中国娘、ベテランの店員、若い店員、みんなにこやかにやってくる。「イヤー、凄い、イヤー、これは凄い」銀髪が褒め称えるとみんな誇らし気な笑顔を見せる。これだけの大物を仕入れているとはさすが新世界菜館である。

「割り箸持って来てくれる?」上海蟹の足の身を押し出すのに割り箸を使うのは初めてだ。普通の上海蟹の足に割り箸は太すぎる。ミソとネットリした白子を堪能した後は疲れるだけの上海蟹だが、この日は身も楽しめた。

最後にお腹を満たすために上海蟹みそたっぷりのあんかけチャーハンを頼んだ。若い店員が料理をテーブルに置こうとするので「あっ!そのまま持っていて。ちょっとこちらに傾けてくれる?」と言った。「写真を撮る人は多いですが、注文つけられたのは初めてですよ」と苦笑する。「ダメかな?」と言うと「きれいに撮ってもらった方が嬉しいですから」とポーズを取る。なかなか可愛い奴だ。

店を出るとき、応対してくれた店の人たちが勢ぞろいして笑顔で見送ってくれた。銀髪も満面の笑顔で、ちょっと格好をつけて手を上げた。今まで来た中で一番の新世界菜館だった。

新世界菜館
東京都千代田区神田神保町2-2 新世界ビル
03-3261-4957
http://www.sinsekai.com/

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2010年01月04日

もう一度食べたいこの逸品(梅)

ごはんもの6品。

昨年行った店の中から今年もう一度食べたい逸品を選びました。全部B級というわけではありませんよ。(赤字の店名を左クリックで掲載した紀行文を読むことが出来ます)

新潟名物という醤油味のカツ丼。店名は料理名そのもののタレカツ。揚げ物にも醤油派の人にはお奨め。

王ろじのカツカレーも独特だ。とんかつ自体も変わっている。カリカリッと揚がった衣が特に気に入った。

ワンズキッチンの納豆チャーハンは納豆好きの人はもちろん、嫌いな人でも食べられると思う。とても香ばしい。日中友好の逸品。

富麗華など中国飯店グループの店は中国醤油を使ったチャーハンが人気。潮夢来で食べた季節限定の上海蟹チャーハン。複数の素材、味付けが見事にハーモニーしている。レシピが欲しい。

宇都宮のステーキハウス存じやすのガーリックライスは肉を焼いた鉄皿で作られる。牛肉から皿に溢れた肉汁と脂の旨味を米が吸収する。単品では味わえない料理なのが残念。

赤坂喜久好のこはだ。同じ魚でもしゃりと合わさるとどうしてこんなに美味しくなるのだろう。見た目も実に美しい芸術品だ。寿司の素晴らしさを教えてもらった。ランチならそれほど敷居は高くないが、できれば夜にじっくり味わいたい店である。

どんなに美味しい料理でもそれだけでは輝かない。料理もやはり人である。この店のこの人との出会いを求めて今年も食べ歩きます。

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2010年01月03日

もう一度食べたいこの逸品(竹)

気軽に行ける店

昨年行った店の中から今年もう一度食べたい逸品を選びました。(赤字の店名を左クリックで掲載した紀行文を読むことが出来ます)

今泉のカキフライはランチの人気料理。複数の牡蠣を一つの大きなカキフライにする。とてもジューシーだ。

半世紀以上も新宿で愛され続けるどん底のピザ。最近は石釜で焼く本格的なピザが人気だが、どん底のピザは生地を覆ったチーズが焦げて香ばしい日本のピザだ。

活屋本店では若い料理人が作るクリームチーズに似た食感のちょっと固めの自家製豆腐が食べられる。これを特別に揚げてもらった。揚げ立ての厚揚げが不味いわけがない。是非、メニューに加えてもらいたい。

老舗ちゃんこ料理屋として有名な川崎。意外なことに焼き鳥が絶品。塩味全盛だがタレの焼き鳥もいいもんだ。ソップ炊きのちゃんこしかない店だから、鳥肉が美味いのは当たり前かもしれない。

煮炊き料理が自慢の楽太郎だが、茄子のそーめんも名物の一つ。本当の麺のような食感がとても面白い。

島根玉造温泉の若竹寿しで食べたのど黒の一夜干しには驚いた。カレイ、アジなどの一夜干しで有名な浜田港のことを知った。同時に一夜干しの美味さを再確認した。通販でも手に入れることは出来る。


日本人に生まれて幸せだ。

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2010年01月02日

もう一度食べたいこの逸品(松)

なかなか行けないけれど

昨年行った店の中から今年もう一度食べたい逸品を選びました。(赤字の店名を左クリックで掲載した紀行文を読むことが出来ます)

筑紫楼銀座店では数種類のフカヒレを扱っているが、一般的なヨシキリザメではなくワンランク上のアオザメのヒレ姿煮は壮観だった。皆で分け合えば、コースで食べるより価値がある。

座屋の名物はかつおのたたき。目の前で藁を燃やすのを見るのも楽しい。

鳥ふじは親子丼の評判も高い。しゃぶしゃぶ感覚で食べる夜の名古屋コーチン鍋は絶品。

オステリア ヴィンチェロで食べるトリュフ料理は最高だった。特選卵と長期熟成のパルメザンチーズのスープにトリュフを浮かべる。メニューにないのでいつも食べられるとは限らないのが残念だ。

コルザのステーキコースの前菜として出て来る玉ねぎのオーブン焼き。長時間かけてオーブンで焼く。単純だが家庭ではできない料理だろう。

流石はなれのそばがきは目の前でそばの実をひいて作ってくれる。そばがこんなに粘り気があるものとは思わなかった。

フカヒレ以外はコースに含まれるものなので気軽に単品で食べることは出来ない。フカヒレだって気軽というわけではないけれど、いつかもう一度食べてみたい料理である。

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2010年01月01日

2010年元旦

新年あけましておめでとうございます

「ママ、トイレの写真撮るよ!」我がホームバーである風長閑のトイレに入ると季節を感じさせてくれる。男性客にとっては目の前に広がる景色を数秒間楽しむことになる。昨年末、富士山の絵を見てこれだと思った。

12月初め、羽田から富山ヘ向う便が美しい富士山を撮る最後のチャンスと思われた。いつものようにA席を確保したが、飛行機に乗り込むと通路を挟んでB席とC席の老夫婦が話をしている。C席の女性に「席を替わりましょうか」と言ってしまった。固辞する老夫婦に「きれいな富士山が見えますよ」と言うと、嬉しそうに席を立った。最後のチャンスは消えた。

その後新幹線からも何度か撮ったが使い物にならない。新年に自転車で多摩川まで行こうと思っていたところで風長閑のトイレに入ったわけだ。撮影して席に戻りギネスを飲む。2杯目は「ジャパニーズウイスキーがいいな」とバーテンダーの石井さんに頼んだ。出してくれたのは富士山麓。

「これも撮るか!」と言うとママがあれもこれもとボトルを出させる。「富士山と関係ないじゃないか」と文句を言ったものの、太陽の赤をイメージしていると気が付いた。「石井さん、初日の出をやってよ!」と頼むと快く引き受けてくれた。

「前の瓶が邪魔だな」「もう少し頭を上げて」勝手な注文にもニコニコしながら「こうですか?」とポーズをとる石井さん。出来た写真を見てみんなで大いに笑った。後からやって来た常連のKさんや店のKちゃんにも見せてまた笑う。

怪我の功名と言うのだろうか。転んでもただでは起きないというか、結果的に老夫婦に席を譲ったことは吉と出た。いい笑いおさめになった。銀髪グルメ紀行の読者の皆様にとってはいい笑い初めになっただろうか。今年も、笑って、笑って、笑って過ごしたいものだ。笑って幸せを呼び込もう。

本年もよろしくお願い申し上げます。

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